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10.2 成果の活用
以上の研究成果は今後の船舶の設計、建造、保守、点検等のライフサイクルに渡って次のように活用される。
(1)腐食疲労の寿命予測法の精度向上が図れる。
1)高張力鋼を用いた小型試験片について膜厚、温度変化等の影響によるS−N線図が得られた。今後各種の構造物の設計に有用となる。
2)バラストタンク内構造部材の疲労強度評価法の適用によって塗膜が比較的健全である建造後8年間程度の寿命予測が可能となる。
(2)実船の検査保守技術の方向付けが可能となる。
1)塗膜のき裂の発生により構造部材のき裂の進展が発見される。
2)き裂を伴わない腐食または塗膜劣化が発見された場合、以後の検査保守を検討する上で、提案された余寿命予測手法が適用可能となる。
3)電気防食は腐食疲労寿命改善にも有効であり、又、局部的な防食電位分布の推定に基づくバックアップアノードの効果検討も保守点検計画の重要項目である。
(3)実船バラストタンクの信頼性向上及び長寿命化が実現する。
1)雨水によるピットの発生を防止するために溶接ビード部は内業での溶接加工直後にプライマー塗装を施すなど、曝露環境にさらさない防錆対策が重要である。
2)疲労強度上重要な箇所については溶接ビード形状の重点管理を行う。

 

10.3 成果の制約条件と今後の課題
本研究は主として実験室において試験片を用いた実験及び理論解析により行われたために多くの制約があり、実環境を十分模擬しているとは言い難い面もある。そこで以下のように研究上の制約をまとめて研究の性格を明確にすると共に、未解決の課題を抽出して、今後の研究の参考としたい。
(1)長期間腐食疲労実験
腐食疲労には時間の影響が大きいために実際と同じ繰返し速度0.17Hzで最長6ヶ月の実験を実施した。今後は数年間に及ぶ腐食疲労強度実験が必要である。
(2)き裂発生検出法の開発
試験片のき裂発生を人工海水中で発見することは、特に塗膜がある場合の検証が困難であった。
今後き裂発生の確認方法と腐食環境中のき裂伝播係数の確保が必要である。
(3)塗膜の技術データの確保
塗装された構造部材の腐食疲労は塗膜を浸透した海水による腐食疲労である。今後は塗膜に関する技術的なデータの採取が必要である。
(4)塗装部材の疲労強度改善策
塗装された部材の海水中疲労強度は大気中の疲労強度よりもかなり低減した。
船舶や海洋構造物の合理的な設計のために大気中の疲労強度まで向上させる局部的な施工法の開発が必要となる。

 

 

 

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